2006年12月16日

ディスカウントTOB

12月14日の日経金融新聞の記事に、「TOB価格上昇続く  ディスカウント2割弱、買収者と株主、事前に合意」との記事が出ていました。今年起きたTOBプレミアムについての記事です。

市場価格に対するプレミアムは平均で24.5%。昨年の18.2%を大きく上回ったそうです。要因は敵対的買収や複数社による買収合戦が増加し、プレミアムを引き上げたことです。
一方で市場価格を下回る、いわゆるディスカウントTOBが10件と全体の2割弱に達したそうです。買収者と大株主が事前に合意、対象会社の上場を維持しながら支配権を移動させる例が多かったとの分析をしております。

今日のエントリはこのディスカウントTOBが起きる背景を簡単にまとめます。

そもそもTOBは金融商品取引法で上場企業の発行済み株式数の3分の1超の株式を買い付ける場合に義務付けられている手続きです。この3分の1超の買収はTOBをしなければならないという規制がディスカウントTOBが起きる主要因です。
買収対象会社の上場を維持するには上場廃止基準に抵触しない株数を上限として買い付けることになりますが、プレミアムを付けた場合には、一般の株主も応募する可能性があります。この場合は按分比例によって買付が実行されるため、大株主が全株を売却できない可能性が生じます。このため上場を維持しながら大株主がすべてを売却するためにとしてディスカウント価格でのTOBが使われています。

本来ならば企業の支配権を握ることができるまとまった株式には、コントロールプレミアム分が上乗せされるので、現在の株価以上の価値が生じます。それにもかかわらず、円滑な経営権の譲渡を優先した安値での株式売却は、公正な市場価格での売買というTOBの精神に反すると各方面から指摘があります。

こういった指摘とは別に、実際のM&Aでは、ライブドアvsフジテレビの件や三井住友銀行が東京三菱銀行とUFJ銀行の統合の際に対抗案を出すなど、TOBは世間に対して交渉がオープンになり、対抗ビットが出てくる事例も出てきているので、ディスカウントTOBは今後リスクのある行動となりうるでしょう。





ラベル:TOB
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2006年12月14日

マルハ&ニチロ

久々のエントリ^^;
海外に行っていました。
滞在先で一番印象に残ったニュースは・・・・・
ズバリ「マルハとニチロの経営統合」。
11日のニュースなので、かなり後追いになってしまいましたが、
少々コメントをば。

水産業界では2002年に当時5位で売上高約400億円の宝幸水産を日本ハムが吸収したくらいで大きな再編はこれまでありませんでした。そういう点で、首位と3位の伝統企業同士の再編は意義があると思います。

ただ規模だけが大きくなった印象の方が強いですね。一時期に比べたら随分改善されましたが、マルハの有利子負債は今でも決して低い水準ではないですし、ニチロも同様です。両社の統合が規模だけでなく、企業ブランドも業界トップになるには、かなりの努力を要するでしょう。業界で最もブランドがある企業といえば、日本水産ですが、今回の統合だけでは、まだ日本水産に分があるかなと思います。
両社とも風通しの良い組織、という評判は聞いたことがないので、統合プロセスは時間がかかりそうですが、これからに期待したいです。

しかし、食品業界の再編の動きが本当に活発になってきましたね。
これまでは国内市場の縮小化が、引き金になっていたケースが目立ちましたが、本件、すなわちマルハとニチロの統合を決めた背景には世界的な水産資源の需要拡大による調達価格の上昇と、小売業の価格競争に伴う納入価格の下落があります。要するに原材料価格が上がったのに商品価格にコスト上昇分を転嫁できない状況が続いていたわけです。
統合を機に、魚の調達ルート拡大で商品提案力・新商品開発力を高めて小売業からの圧力を和らげることになると予想されます。実際、業界の人に聞くと、営業の現場では、小売り・卸から技術や営業、調達まで高度な要求が出てきているそうです。具体的には新聞各紙で書かれている通り、マルハの世界的な魚の調達ネットワークと、冷凍食品に強いニチロの開発力を組み合わせて新たな商品を生み出すことになるのでしょう。こういった新しい試みをするのには、前述の通り、統合プロセスが非常に重要になってくるわけです。





ラベル:TOB
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2006年12月08日

人材派遣業界のM&A

グッドウィルとクリスタルの件は衝撃的なニュースでしたね。
人材派遣業界はここ何年にもわたって市場規模が拡大している業界ではありますが、
一方でM&Aが非常に多く起きている業界でもあります。
しかもその要因、M&Aのパターンは極めてシンプル。
今日は@人材派遣業界でM&Aが起きている要因、A人材派遣業界でのM&Aの特徴を簡単にまとめようと思います。

@人材派遣業界でM&Aが起きている要因
ポイントは↓の二点です。
A)諸費用の上昇
B)派遣料金の頭打ち

A)諸費用の上昇

景気回復に伴って、日本全体が人手不足感があることは連日新聞等で取り上げられています。新卒採用市場が売り手市場になっていることもその象徴でしょう。人材派遣業界でもビジネスの要となる、派遣者の確保が難しくなってきており、需給バランスが崩れています。そこで、人材派遣会社は人材獲得のために、派遣者への賃金を高くして、人材の確保に必死になっているわけですが、この賃金上昇が人材派遣会社を締め付けています。
派遣者の賃金上昇と同時に、人材獲得のために各社が広告合戦をしているため広告宣伝費の増加も深刻となっています。
また社会保険の未加入について、行政も厳しくチェックをするようになり未加入のままの中小規模の人材派遣会社にとって、社会保険加入に伴うコストは大きな問題となっています。
これらの諸コストの増加は中小の人材派遣会社を苦しめる要因となっています。

B)派遣料金の頭打ち

(A)で説明した諸コスト上昇を吸収するために、人材派遣会社各社は顧客企業に対して派遣料金の値上げに動いているようです。しかし顧客企業も人件費を削減が必要なため、料金の値上げは難しいと市場では予想されています。


A人材派遣業界でのM&Aの特徴
ポイントは↓の二点です。
C)大手人材派遣会社による規模の拡大
D)大企業の人材派遣子会社の売却

C)大手人材派遣専業会社による規模の拡大

人材派遣業界は、製造業や流通業のようにスケールメリットが強く働く業界ではありません。したがって、大手人材派遣企業がM&Aをする理由としては、「足りないものを補う」ことが一番大きな理由となります。具体的には特徴としては@地域補完型M&A、A専門業務補完型M&A、B周辺業務多角化型M&Aに大別されます。

D)大企業の人材派遣子会社の売却

2000〜2003年の間に多かったパターンです。ちょうど、選択と集中が叫ばれていた時代です。親会社の選択と集中を背景として、人材派遣子会社の売却を行う大企業が非常に多かったです。代表事例としては、JFE商事(旧川鉄商事)の子会社川鉄スタッフサービスのピープルへの売却、日立造船の子会社クリエイティブのニスコムへの売却などが挙げられます。
ただし、企業のリストラも落ち着いてきたため、このパターンのM&A最近は一段落した感があります。




ラベル:業界再編
posted by Qさん at 23:01| Comment(8) | TrackBack(9) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月06日

メルシャンの売却の背景

M&Aというのは、決して派手でかっこいいものではない。
確かに動くお金の規模の大きさや、企業の経営権が移動するというインパクトの大きさでは、印象深い経済事象になりうる。
しかし、案件規模が大きければ大きいほど、利害関係者の目は厳しく光り、それぞれのエゴがぶつかり合う。例えば、企業経営が自らの生活の一部となっている経営者の場合だと、自らの人生がかかった決断になる。案件に関わる人それぞれの立場によって、全く意見が異なるので、「落としどころ」を見つけるのに相当な経験と能力を有する。

「落としどころ」を構成する要因も多岐にわたる。
譲渡する株式の比率や合併比率など、シェアに関わる問題、株価など経済的条件、企業を取り巻く外部環境・内部環境のタイミングなどなど、案件によって要因は増えたり減ったりする。

メルシャンの売却は、こういった「落としどころ」が、まさに今このタイミングで見えた案件だったと思う(エントリ後半の日経産業新聞の記事をご参考ください)。
食品業界に詳しい証券アナリストや投資銀行マンなら、メルシャンを大手酒造メーカーに売却することの合理性は理解できたし、それ故、皆が「狙っていた」案件だ。
しかし、いかに、いかなる点でもロジックが成立しても、ロジックだけでは「落としどころ」というのは見えてこないし、作れない。M&Aというのは、人の(良く言えば)心理、(悪く言えば)エゴというものが大きく影響する。
故に、M&Aは決してかっこいいものではないのである。






(参考:メルシャンの売却の記事)

メルシャン、キリンが友好的TOB ― 同根の味の素と決別
2006/11/17, 日経産業新聞, 24ページ

 キリンビールとメルシャンは十六日、キリンがメルシャン株の過半数を取得することで合意したと発表した。記者会見の席上、メルシャンの岡部有治社長(64)が「第二の創業」「新生メルシャン」という言葉を繰り返したのは、創業家が同じ鈴木家で筆頭株主、味の素への複雑な思いがあるからだ。自身の古巣でもある味の素とメルシャンの間に何があったのか。
 「メルシャンは連結子会社でもなければ持ち分法適用会社でもない。事業戦略上、何も関係ない。創業家が同じ“同根”会社というだけ」。味の素の江頭邦雄会長(69)は、メルシャンの話になると決まって不愉快な表情を浮かべる。
 M&A(企業の合併・買収)や不振事業の売却を積極展開し、リジンやスレオニンなどの食品や飼料、医薬品向けアミノ酸市場で世界トップシェアを握るまでに成長した味の素。業績低迷に悩むメルシャンは「売却対象」以外の何ものでもなかったからだ。
 それでもメルシャンを切り離せなかったのは、「同根」のしがらみからだ。味の素の創業者は初代鈴木三郎助の長男、二代目三郎助、メルシャンの前身、三楽は初代三郎助の二男、忠治が創業、いわば本家と分家に別れて味の素とメルシャンの経営に携わってきた。
 九七年の総会屋への利益供与事件後に社長に就任した江頭氏は、それまで誰も手をつけられなかった創業家を含む社長経験者の相談役や会長ら「長老」を排除。本家の四代目三郎助の息子、重利氏は常務執行役員にとどめ、取締役にも昇格させていない。一方、メルシャンには創業者の孫で、味の素副社長も務めた鈴木忠雄氏(76)が「メルシャンは家業」と言い、経営に参画してきた。
 そんな両社に転機が訪れたのは昨年十月。メルシャン内で内紛が起こる。経営改革を進めない首脳にしびれを切らした労働組合委員長や一部の役員が「株主提案を行使する」と賛同者を募った社内メールを流す。
 三月末に予定されていた株主総会までにこの“クーデター”を押さえ込むには、忠雄氏自身に突きつけられた「今年三月末に代表権のある会長から代表権のない取締役相談役に退き、〇七年三月末の任期満了をもって退任する」という条件をのむしか道はなかった。
 それまで最高経営責任者(CEO)で代表権のある会長だった忠雄氏は今年二月二十日に代表権のない取締役相談役に退き、来年三月末の退任を表明。岡部社長がCEOに就いた。この機会を味の素は逃さなかった。
 〇四年一月にメルシャン社長に就任して以来、岡部氏は東京・京橋の味の素本社に何度も江頭氏も訪れた。「味の素の食品とメルシャンの酒類事業で連携を深めてもらえないか」。だが「球団と酒はやらない」という固い意志を曲げない江頭氏の返事はつれない。
 岡部氏は今年正月には「味の素との決別」を決意。「投資ファンドに敵対的買収をしかけられぬとも限らない」との不安もよぎる。七月に「いい国内のパートナーと組む。味の素には頼らない」と漏らすようになっていた岡部氏はキリンの加藤壹康社長とひそかに業務・資本提携の話しを進め、九月下旬に江頭氏に決別の意を伝えた。
 江頭氏はこの時、味の素が保有する一二・八二%のメルシャン株をキリンが実施するTOB(株式公開買い付け)に応募して手放すことを了解したもよう。「味の素は同根だが、食品と酒類は近いようで遠かった」。十六日の記者会見で語った岡部氏の表情は晴れやかだった。




posted by Qさん at 23:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近のニュースの考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月01日

【おすすめ書籍】M&Aファイナンシャル・アドバイザリー・サービス―実務をひもとく14のストーリー

M&Aファイナンシャル・アドバイザリー・サービス―実務をひもとく14のストーリー



M&A仲介専業大手のレコフが毎月出版している
M&A専門雑誌「marr」の中にある連載コーナーを単行本化した本です。

内容は比較的最近ホットな話題について、
ベテラン公認会計士と若手公認会計士といった架空の登場人物を中心に
会話形式で展開されていて、大変読みやすいです。

実務上問題になりうる事例もいくつかあり、参考になります。
レベルとしては初級〜中級前半です。

一つ一つの章が長くなく、移動時間中にさらっと読むのに最適です。




posted by Qさん at 20:01| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめ書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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